知っておきたい【高齢妊娠・高齢出産】のリスクと乗り越えるために大切なコツとは?
仕事に没頭したり、キャリアを重ねることに力を注ぎ、結婚や出産を先送りにする女性やカップルが増えています。35歳以上の初産が珍しくない今、年齢ならではのリスクを知って、妊活、出産に備えることが注目されています。
高齢妊娠、高年出産はリスクがあるといわれますが、どんな影響があり、どうしたら良いのか、今回は、福岡市東区の青葉レディースクリニックの院長、小松先生に、お話をうかがいました。
目次
高齢出産におけるリスク
女性は年齢を重ねるごとに、妊娠しにくく、流産しやすく、妊娠中の合併症にも罹患しやすく、分娩時のトラブルも増えます。
具体的には妊娠前の時点で、子宮筋腫、慢性高血圧,糖尿病(耐糖能異常)などの合併症を有する傾向が見られます。
年齢と流産の関係は、一般に、一度の妊娠で流産する確率は10〜15%と言われています。その約60%は胎児の偶発的な染色体異常が原因で避けることはできません。
40歳の女性の場合、妊娠11週までの初期流産をする可能性は40%、42歳では50%を超えます。
高齢妊娠では胎児の染色体異常を気にする女性が多いのですが、加齢とともにダウン症の子を出産する確率は増え、40歳では約80人に1人の確率です。
国立成育医療センターの報告によると、母体年齢が高いほど、妊娠高血圧腎症、前置胎盤、帝王切開分娩の頻度が高くなっています。
45歳以上では30〜34歳の方と比較して、およそ2倍でした。
同様に母体年齢が高いほど、早産、未熟児出生の頻度は高くなっていますが、その差はいずれもわずかです。
一方で、母体年齢が高くなっても、死産・胎児死亡の頻度は有意には変わりませんでした。
年齢とともに、産科合併症のリスクが上昇するのは自然なこと
年齢が高くなると妊娠高血圧腎症のリスクが有意に上昇するという関係は、経産婦で顕著です。
前置胎盤に関しては、初産婦でも経産婦でも、年齢が上昇するとリスクも上昇します。
帝王切開分娩のリスクは初産婦では年齢が高くなると有意に上昇するのに対し、経産婦では有意なリスクの上昇は認めませんでした。
一方で、帝王切開分娩のリスクは、生殖補助医療の有無にかかわらず年齢が高くなると上昇しました。
妊娠高血圧腎症のリスクは生殖補助医療によらない妊娠の場合、年齢が上昇するとリスクも上昇します。
また、前置胎盤に関しても同様に生殖補助医療によらない妊娠の場合、年齢が上昇するとリスクも上昇します。
要するに、年齢とともに、産科合併症のリスクが上昇するのは自然なことです。いくら気を付けても、妊娠高血圧症候群や胎盤位置異常など多くの産科合併症を防ぐことは難しいと言えます。
高齢妊娠に備えて何をしたら良いの?
生活習慣を見直しましょう
日頃から、適度な運動、食生活や生活習慣の見直しなど、まず生活習慣病を予防することがとても重要です。
喫煙は流産に関与する可能性がありますので、ご夫婦で禁煙し、過度のアルコールも控えましょう。
婦人科を受診してますか?
まだ婦人科を受診したことがなく、健康診断も受けたことがなければ、すぐにでも、婦人科を受診してほしいと思います。
婦人科受診の際は月経や不正出血に関する詳細な記録、基礎体温表は診療に役立ちますので、ぜひ持参してください。
子宮頸がん検診だけでなく、超音波検査や採血も受けて、子宮筋腫や卵巣嚢腫、子宮内膜症、甲状腺疾患、糖尿病(耐糖能異常)がないかどうか調べて、早く適切に治療することが肝要です。
風疹も流行しているので、風疹の抗体の有無も調べた方がいいでしょう。
葉酸は妊娠前から分娩まで
葉酸については、以前は口唇口蓋裂、二分脊椎などの予防を目的として、妊娠初期のみ、サプリメントによる摂取が推奨されていましたが、現在は胎盤絨毛細胞の発達を促し、胎児の自閉症や発達障害、母体の妊娠高血圧の予防に役立つことがわかってきましたので、妊娠前から分娩まで摂取するように指導しています。
高齢出産を乗り越えるコツは?
高齢妊娠、高齢出産は産科合併症のリスクが高く、不安がつきものです。
正しい情報を得るために、ネットで検索して、逆に、混乱している方も多くおられます。
まずは主治医の先生に悩みや疑問に思うことを、十分に相談することが大切です。
妊娠が判明したら、重いものを持つことや、激しいスポーツや運動、体の冷え、過労、ストレスを避け、待望の妊娠生活を楽しんでください。
職場への報告も
仕事との両立は難しい場合もあります。
職種によっては軽作業への転換や勤務時間の短縮で、乗り切ることも必要です。
突然、流産や早産傾向が出現し、やむなく休職せざるを得ないこともあります。
高齢妊娠では職場へ早めに報告することが望ましいでしょう。
できることから1つづつ
妊娠中は体重管理が最も大切です。食事については外食を控えて、なるだけ自炊を心掛け、バランスの取れた食事をゆっくり噛んで食べ、規則正しい生活、ウォーキングをメインとした適度な運動を毎日実践すれば体重管理も達成できますが、患者さんの中にはストレスを感じる方もおられます。
また運動は早産傾向のある患者さんは実行できませんので、当院ではまず、生活の様子や、お話を聞いて、一つでも出来そうなことから、始めています。
妊娠中はTender loving care(優しく接すること)が流産率を低下させます。
特に、パートナーができるだけ優しい言葉をかけてあげることが、とても大事です。
また、流産・死産した後の辛い気持ちは1人で我慢しないでください。パートナー、家族、我々産婦人科医と一緒になって辛い気持ちを乗り越えましょう。
高齢出産はいいこともいっぱい!
高齢妊娠にはメリットもあります。
精神的・経済的な余裕がある場合も多く、ゆったりとした気持ちで妊娠・出産、育児に向き合えるという強みです。
子育てには思った以上にお金がかかります。
気持ちの余裕は金銭的余裕からも生まれます。
育児をベビーシッター等に任せ、託児施設を利用するなど身体的な衰えを補えることも大きなメリットと言えます。
また、周囲に、出産・育児を経験した友人が多く、リタイアされたご両親に協力いただけることも考えられます。
困った時に相談にのってもらえる環境があることはとても有り難いことです。
適度な運動やバランスのよい食事というシンプルな生活習慣を心がけながら、「出産当日を楽しみに待つ」という気持ちで、リラックスして妊娠生活をおくっていただくことが大切だと思います。
出産後の育児との向き合い方は?
高齢出産の方は妊活や不妊治療に取り組んでいた方も多く、妊娠・出産自体が、目標になっている場合も少なくありません。
そのような方が出産後、燃え尽き症候群を発症するケースもあります。
お産を終えると、赤ちゃん中心の生活に変わり、それまでの環境が一変します。
大きな責任と社会的な負担も増します。
生理的機能の激しい産後6〜8週間の産褥期(さんじょくき)は、特にストレスの負荷を受けやすく、留意する必要があります。
母子健康手帳に「精神的健康セルフチェック」の項目がありますので、参考にされるといいと思います。
ストレスを放っておくと、産後うつに移行する場合もあります。
産後うつは、お母さんがつらいだけでなく、母子間の愛着形成や赤ちゃんの発達にも影響する可能性が考えられます。
一人で抱えこまないことが大切
キーワードは、「頼ること」です。家族の協力や職場、友人のサポートは心の支えになります。
まずは分娩機関へ相談し、保健婦、公的機関も遠慮なく頼ることです。
新しい家族が増えたことに慣れ、日常生活が安定してきたら、自然と解消されることも多く、それまでは我慢しないことも意識してほしいです。
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インタビューを終えて
今、女性が活躍する時代を言われますが、そうならざるを得ない時代ともいえます。
男女差がほとんどなくなった進学率の先で、男女が変わらず働き、評価される時代。
結婚や出産を先送りにするカップルも増えていますが、高齢になればなるほど、身体の不調は起こりやすくなります。
30代半ばからの妊娠・出産・子育てにはリスクだけではなく、メリットもあります。
個人差がありますが、しっかりとした準備をしておくことで、高齢出産のリスクを下げて母子ともに安心して前向き出産にのぞむことができます。
今回、小松先生には、出生前診断についてもお聞きしていますので、そちらも改めて紹介します。
お話を聞いたのはこの方
青葉レディースクリニック
院長 小松 一 先生
平成7年3月 九州大学医学部卒業、九州大学病院周産母子センター母性胎児部門、北九州市立医療センター産婦人科、九州厚生年金病院(現、九州病院)産婦人科などを経て、2007年5月 青葉レディースクリニックを開設。
2012年にはマタニティヨガ、離乳食教室、家族が泊まれる病室、母親教室なども開始。
患者さまとの対話を重視し、安心・安全でしっかりとした診療のご提供を第一として、末永く地域のみなさまに愛される病院を目指す。
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